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Research Interest

こんなことをやってきた and/or やっていきたい

基本的には力学系モデリングなどを通した理論的アプローチ
対象は「簡単なところから始めよう」という物理学の精神に則って大腸菌や酵母の単細胞生物でやってます。

細胞死の理論

「生きている」状態と「死んでいる」状態の違いは何か、という問いは間違いなく生物学上の最重要テーマのひとつでしょう。

 

「生きている状態」、とくに指数関数的に増殖している細菌に関しては近年、多くの普遍的な(というと言い過ぎかも知れないが)法則が発見されてきました。しかし「死」については分からないことだらけです。

 

そもそも「生きている状態」と「死んだ状態」は明確に区別することが出来るのでしょうか。
例えば大腸菌の生死を判別したいとしましょう。大腸菌は老化せず寿命もないので彼らを殺すためには飢餓や薬剤、高温環境などにおいてやる必要があります。そうすると彼らはまず増殖を停止するのですが、これは「死んだ」状態とは限りません。

 

細胞の破裂といった分かりやすい場合(a)を除いて、細胞の生死を判定するためには増殖可能な環境に移して、再び増殖を始めるかを調べることになります。

もちろんこれで判定できることも多いのですが、ストレスに晒された細胞は増殖を再開するまでにある程度のラグを伴うことが知られています。同じ遺伝子を持つクローン集団のなかでも、このラグは数時間から数日とバラつきますし、数年にも及ぶ可能性もあります(b)。そのためこの方法で細胞の生死を判定するには、原理的にはいつまでもいつまでも待ち続ける必要があります。

どうにかして「生き返るか待ち続ける」以外の方法で細胞が生きているか死んでいるかを判定することは出来ないでしょうか。

 

言い換えれば「ここを超えるともう生き返れない状態」、いわゆる "Point of no return" あるいは三途の川を科学的に見つけることは出来ないでしょうか(c,d)。というふうにずっと思ってるんですが、なかなか良いアイデアがないんですよね...(e)

(a) PI染色などもこの「分かりやすい場合」に含めている

(b) 深海にいるある微生物の平均分裂時間は年オーダーにもなるらしい。これは厳密にはラグではないが分裂までの待ち時間という意味では同じ

(c) 端的に言えば、ストレスなどによってVBNC状態などに陥っている細胞について、これから先culturableに戻るのか、それとも戻ることはなくしばらく経てば死ぬのか、ということを何かの量を見て知りたい(資化能とかは方法としてはなくはないけど..)

(d) イメージしているのは例えば、「point of no returnを超えると特定の化学物質の揺らぎの性質が著しく変わる」みたいなこととか

(e) 「いつまで待てば生死が判定できるのか」という元々の問題はぱっと見、停止性問題に似ているので、この問いに対する答えは「そのような判定方法はない」かも知れない。けれどそれが無理なら無理でとても意味のあることだし、完璧な判定が不可能と分かれば次は近似手法を考えれば良い

休眠状態の理論

「休眠状態」と呼ばれる「生きている」状態と「死んでいる」状態の間のような状態があります。

飢餓や薬剤への曝露によって細胞はこの状態へと遷移し、この状態では化学反応速度はかなり遅くなっているため当然成長はほぼしない一方で、死ぬ速度もかなり抑えられている、文字通り「眠っている」状態です。

 

この状態で細胞にストレスを与え続ければ細胞は徐々に死んでいくので、これは上述したPoint of no returnの一歩手前の状態だと(恐らく)考えられます。

 

この状態になった細胞には抗生物質などが極めて効きにくくなるため、医薬業界からも大きな興味が持たれており、休眠状態に関連する多くの遺伝子や代謝物質が実験的に調べられてきました。

この休眠状態についてはいろいろな疑問が湧きます。例えば

  • 休眠状態を誘導する方法はいろいろとあり、誘導の仕方によって発現している遺伝子は異なるが、ではそれぞれの方法で誘導された休眠状態は本質的に違うのか。それとも「眠る」という状態になればその誘導方法に依らず普遍的に出現する法則があるのだろうか
     

  • 休眠状態は自己触媒的に増えていくシステムでは自然に備わってしまう性質なのか。それとも細菌が進化的に獲得してきた「機能」と考えるべきなのか
     

  • 熊やネズミなどの「冬眠」、あるいはクマムシやネムリユスリカの「乾眠」は、「活動度を下げることで厳しい環境を乗り越える」という意味で休眠状態に似た機能を持っている(a)が、種を超えてみられるこれらの現象には「なんとなく似ている」以上にどこまでの共通性があるのだろうか
     

​こういったことを考えつつ休眠状態の理論研究を行い、例えば休眠状態にいた時間の平方根で成長再開までのラグが増加すること[1]、成長再開までのラグが進化的に増える条件・減っていく条件[2]、遺伝子制御がなくても代謝反応のダイナミクスだけで休眠状態のような状態への遷移が起こること[3]などを報告してきました。

このあたりがいまメインでやっていることです。

(a) 冬眠と乾眠は専門じゃないので変なこと言ってたら優しく教えてください

[1] YH and Kunihiko Kaneko,  Phys. Rev. X, 7, 021049, (2017)

[2] YH and Namiko Mitarai, PLoS Comp. Biol., 17(2):e1008655, (2021) 

[3] YH and Namiko Mitarai, bioRxiv (doi:10.1101/2021.07.21.453212), (2021)

生きるためのエネルギー

細胞の生死を扱う別のアプローチとして、エネルギー論から攻めるというルートもあります。S. J. Pirtという生物学者が1960年代に実験に基づいて次のような方程式を提案しました

J(μ)=m+μ/Y

 

この式は細胞が栄養を消費する速度Jが成長速度μと線型の関係にあることを主張していて、比例係数の逆数Yは細胞の最大収率(Maximum Yield)と呼ばれます。

この方程式は細胞をさまざまな栄養濃度の環境で培養し、栄養取り込み速度と成長速度のデータを得て、それを1次関数でフィッティングして求められました。

 

早く成長するにはたくさん食べなきゃならない、という意味でJとμの関係は尤もなもの(a)ですが、とりわけ面白い点は成長速度を0に外挿すると多くの場合にy-切片が非零となったことです。

 

これは、たとえ細胞が成長を止めたとしても必ず栄養を食う必要がある、ということを意味しており、つまり「生きていく」ために一定量の栄養消費が必要であることを示しています。

 

この意味合いを反映して、切片mには「メンテナンスエネルギー」という用語が充てられました。

メンテナンスエネルギーは現象論的なパラメーターですが、「これだけエネルギーを消費できなければ死ぬ」という概念の明確さから多くの場面で用いられています。例えば、ある遺伝子のノックアウトが致死性かどうかを理論的に予測する際の基準として使われています。

ただし、メンテナンスエネルギーはあくまで線型関係式の成長速度0への外挿であり、成長以外の「余り」として定義されているので、具体的にどのような細胞内プロセスがその値を決めているのかは分かりません。

また、実際に細胞を成長速度0に近づけようとすると「休眠状態」に遷移することで線型関係式は崩れるため、成長速度ゼロの状態をつくることでメンテナンスエネルギーを求めることも難しいと考えられます。

 

しかし、たとえ外挿にすぎないとは言ってもメンテナンスエネルギーはまさにSchrödingerの言う「負のエントロピー」のことでしょうし、どうにかして「成長以外の余り」ではなくもう少し積極的な定義が出来れば良いのになぁと考えています(b)。

 

ここら辺に関しては修士の頃に[1,2]を書きましたが、なかなか難しくていまは諦めているので何か良いアイデアある方はぜひ一緒に考えてください。

(a) 関係式が線型になること自体は全く自明ではなく、線型になっている場合は代謝分布がほぼ変化せず値だけが成長速度にスケールする、みたいなことが多分起きているはず。実際に関係式が狭義下凸のような形になるような場合もある

(b) 「余り」として定義することでとんでもない普遍性を持ったものに、熱力学における熱d'Q=d'W-dUがあるので、余りは余りのままで良いのかも知れない。ただその場合、熱力学の準静的過程に相当するものがないといけないよなぁ

[1] YH and Kunihiko Kaneko, Phys. Rev. E, 90, 042714 (2014) 

[2] YH and Kunihiko Kaneko, Physical biology, 13.2 (2016) 

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